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Community Session: CTO AI AMA

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1時間 1分 27秒

Vercelのエンジニアリング文化:成功指標と革新的な製品開発の裏側

ポイント

  • 本記事はVercelのエンジニアリング文化と成功の秘訣を解説し、チームの反復と個人のプルリクエスト数を重視する指標体系を紹介。
  • 勤務時間のような不適切な指標を排除し、トップダウンとボトムアップを融合したユニークな製品開発プロセスと顧客フィードバックの活用方法を深掘り。
  • Vercelが本質的な進捗とチームの健全性を追求しながら、いかにして持続的なイノベーションを実現しているか理解できるでしょう。

はじめに

こんにちは!本日は、Vercelコミュニティセッションへようこそ。このセッションでは、Vercelのエンジニアリングチームがどのように機能し、どのような指標を重視しているのか、そして画期的な製品がどのように生まれるのかについて深く掘り下げていきます。今回は、Malta氏とAndrew氏をゲストにお迎えし、Vercelのユニークな開発文化と戦略についてお話しいただきました。

エンジニアリングチームの最も重要な指標

Malta氏に「エンジニアリングチームにとって最も重要な指標は何か」という質問が投げかけられました。彼は、この問いに対して個人的な見解を交えながら、Vercelでの経験を共有してくれました。

チームレベルでの進捗とイテレーション

Malta氏が最も重視するのは、チームが時間をかけて反復し、着実に進捗しているかどうかです。これは「開発速度(Velocity)」という概念と関連しており、単に速く動くだけでなく、正しい方向に進んでいるかが重要だと述べています。

また、一定の「スループット(Throughput)」も不可欠です。チームが3ヶ月間も姿を消して開発に没頭するような状況は決して良い結果を生まず、常に何らかの形でアウトプットを出し続けることが大切です。全体としては、チームが良い状態にあるか、そうでないかという「雰囲気(Vibes)」も感じ取るようにしているとのことです。

個人のスループットとパフォーマンス評価

パフォーマンス評価の際には、個人的なスループット、具体的にはプルリクエスト(PR)の数などを参照することがあるとMalta氏は語ります。これは時に物議を醸すこともありますが、会話のきっかけとして非常に有効であると考えています。

例えば、PR数が下位20パーセンタイルに位置するエンジニアに対しては、「なぜなのか?」と対話を通じて原因を探ります。逆に、上位10パーセンタイルにいるエンジニアに対しては、「なぜこれほど高いパフォーマンスを出せるのか?個人的なものか、それともチームの協力によるものか?」と問いかけ、その成功要因から学びを得ようとします。このように、純粋なスループットの観点から個々のエンジニア間の違いを探るのは非常に興味深いアプローチです。

ただし、これはコードの行数を直接的に測定しているわけではありません。あくまで「シグナル」として捉え、何か問題があるかもしれない、あるいは素晴らしい成功の要因があるかもしれないということを示唆するものです。Vercelのような大規模なエンジニアリング組織において、このような差異がどこから生まれるのかを理解することは非常に重要です。

最悪のエンジニアリング指標

次に「組織にとって不利益となる最悪の指標は何か」という質問が投げかけられました。Andrew氏も交えて、避けるべき指標について議論されました。

Malta氏が真っ先に挙げたのは「席にいる時間(Spending time in seats)」、つまり勤務時間や出席状況を測定することです。これは生産性や貢献度を測る指標としては非常に不適切であると指摘しています。

また、どんな指標であっても、人々がその指標を「ゲーム化(game it)」しようとインセンティブが働いた瞬間に悪い指標となりうると警告しています。例えば、「書かれたコードの量」だけを唯一の評価指標とすれば、エンジニアは不必要に多くのコードを書くようになり、結果的に品質が低下する可能性があります。

したがって、いかなる指標もニュアンスを持って解釈し、深く掘り下げて分析する必要があります。表面的な数値だけを見て評価すると、それがどんなに良い意図で導入された指標であっても、組織にとって害となる可能性があるのです。

Vercelにおける画期的な製品の出荷プロセス

Vercelでは、ほとんど毎週のように何かしらの機能がリリースされています。では、Vercelが「Workflow Development Kit(WDK)」のような画期的な製品を出荷する際、どのような意思決定プロセスがあるのでしょうか。

Vercelのユニークな点は、トップダウンとボトムアップのアプローチがバランス良く組み合わされていることです。中間的なアプローチはあまり見られません。それぞれの経路は以下の通りです。

  • トップダウン: リーダーシップ層が広範なガイダンスやアイデアを提供し、進むべき方向性を示します。
  • ボトムアップ: エンジニア自身が特定のアイデアに興奮し、「これを開発したい!」と感じた場合、自らプロトタイプを構築します。そして、毎週開催されるデモデーセッションでそのプロトタイプを披露します。このデモを通じて社内の興奮が高まり、その結果、会社として「これはより大きな取り組みとして人員を割くべきだ」と判断し、正式なプロジェクトへと発展することがよくあります。

Workflow Development Kit(WDK)の事例

WDKプロジェクトは、このプロセスの好例です。Vercelは、Vercel上で複雑な長時間実行エージェントをモデル化する最適な方法や、Vercelで洗練されたバックエンドを慣用的に実装する最適な方法に関心を持っていました。そして、この特定のユースケースに焦点を絞って開発を進めました。

特に興味深いのは、この分野でスタートアップを経営していた人物を雇用したことです。この人物は、以前Vercelでインターンを経験しており、すでに信頼関係が構築されていました。彼が自身のスタートアップが「十分に軌道に乗っていない」と感じた際に、「Vercelでそれを構築できないか」と提案し、それが実現したのです。これは、個人の情熱と既存の関係が新しい製品開発に結びつく、Vercelらしいボトムアップとタレント獲得の融合と言えるでしょう。

顧客フィードバックの製品ロードマップへの反映

Vercelでは、顧客からのフィードバックも製品ロードマップに大きな影響を与えています。このプロセスは非常に広範にわたります。

Vercelは、あらゆるチャネルを通じてフィードバックを深く取り入れようと努めています。顧客とは最も広い意味での顧客を指し、具体的には以下のチャネルが含まれます。

  • コミュニティプラットフォーム: Vercelのコミュニティサイトを通じて寄せられる意見。
  • ソーシャルメディア: X(旧Twitter)やLinkedInなど。
  • セールスエンジニアリングチームおよびフィールドエンジニアリングチーム: 営業チームやフィールドエンジニアが、見込み客や既存顧客から直接聞くフィードバックを収集します。

例えば、ある見込み客が「Vercelは素晴らしいが、必要なセキュリティ機能が欠けているため導入できない」とフィードバックした場合、Vercelはその声を真剣に受け止め、ロードマップへの影響を検討します。このように、顧客の具体的なニーズや課題が、Vercelの製品開発の方向性を形作る重要な要素となっているのです。

まとめ

本記事では、Vercelのエンジニアリングチームがどのようにしてその高いパフォーマンスを維持し、革新的な製品を生み出しているのかを探りました。個人やチームのスループットを会話のきっかけとする指標の活用、そして勤務時間のような無意味な指標の排除。さらに、トップダウンとボトムアップのハイブリッドな開発アプローチ、そして顧客フィードバックを深く組み込むことで、Vercelは常に進化し続けています。

Vercelのエンジニアリング文化は、単なる数値に囚われず、本質的な進捗とチームの健全性を重視する姿勢、そして顧客の声に耳を傾けることで、持続的なイノベーションを可能にしていると言えるでしょう。

参考動画

https://www.youtube.com/watch?v=VRgXv6JWh7M